ー代表取締役 牧田千江子様にお話をお伺いしました。
生の魚からかまぼこをつくること
ー今年で創業89年と伺いました。歴史ある会社ですね。
昭和6年創業の、かまぼこの製造販売を行う会社です。創業以来大事にしていることは、自社で生の魚からすり身をつくり、そこから練り製品を作ることです。今では大きな会社でも、お魚の顔を見ないで冷凍すり身を仕入れてかまぼこを作っているところが多く、自社で魚からかまぼこを作る製造技術を持つ企業は少なくなりました。当社が自社製造にこだわる理由は、製品に何を入れて何を入れないかを自社の責任で行うためです。冷凍すり身は保存料などが入っていますし、それが一概に悪いわけではないですけれど、作り手がコントロールできません。当社は、つなぎや保存料はいっさい加えず、魚の味と職人の技だけでかまぼこを作り続けてきました。
鎌倉人が誇りとする蒲鉾屋であり続ける
「鎌倉人が誇りとする蒲鉾屋であり続ける」ことを社是としています。美味しいかまぼこは日本全国にありますが、鎌倉を愛する地元の方に「でもうちの鎌倉には井上蒲鉾店がある!」と自慢していただけるようなお店でありたいと思っています。創業以来、原材料や技にこだわって、製品を作る腕の良い職人の精進とそれを愛してくださるお客様がいて89年続けてこられた、ということにとても感謝しています。
次の世代に伝えたいものをそのままのカタチで残すためには、時代に合った、柔軟で新しいチャレンジを続けていく姿勢が大事だと思っています。
お仕事をする人たちも同じ気持ちで熱心に働いてくれています。
モノづくりの大切さ
最近はものづくりが評価されにくい時代と感じています。ITが普及してバーチャルが重用されますが、基本は一次産業、二次産業だと思っています。身体を使う仕事なので大変ですが、でもそれをやらないと日本の産業の基盤がなくなってしまいます。環境がどんどん変わっていく中で一次産業、二次産業をどのように守っていくか、やはり消費者の皆さんの理解が必要です。
バーチャルなものは、そこにアイデアやスキルは必要ですが、元手がかかりません。製造業は材料があって、製造工程があって、そこに様々なコストがかかってくる。製品の値段の裏側にある価値をわかってほしいと思っています。
地域のネットワークを大切に
当社がもう一つ大事にしていることは、地域のネットワークです。この激動の時代に、バックを持たない一中小企業がやっていくのはとても大変です。鎌倉という土地でがんばっている仲間との、横のつながりが大切になっています。
かまぼこは究極のファストフィッシュ!
-新しいチャレンジという話がありましたが、これから力を入れたいことはありますか。
日本人の食卓に練り製品が登場しなくなっていると感じます。もっと食べていただくために、低カロリー・高たんぱくな練り製品の機能性をアピールしたい。国もファストフィッシュといって、水産物を手軽・気軽においしく食べられる食品を推進する運動をしています。かまぼこはまさに究極のファストフィッシュです。忙しい若い人に、手軽に、便利に使っていただけるような新しい商品を開発したいと考えています。また、そういった使い方の情報発信にも力を入れていきたいです。10年位前には、「惣INOUE」という練り製品や鎌倉野菜を使用した惣菜部門を立ち上げました。惣菜といえば揚げ物しかなかった時代に、若い人にもっと練り製品に親しんでもらえる、身体に優しい惣菜がほしいと思ってつくったもので、これも当時は新しいチャレンジでした。
“食”に対しての姿勢
-そんな井上蒲鉾店さんではどのような方を採用したいと考えていますか。
井上蒲鉾店の店舗はここ由比ガ浜の本店の他に、鎌倉、大船にあり、市外では藤沢、横浜にあります。現在働いてくださっている方は、市内の方と近隣市の方が半々くらいで、若い方から年齢の高い方までいらっしゃいます。
井上蒲鉾店が大事にしていることを理解し、同じ志を持ってくださる方なら大歓迎です。特に、昨今、“食”に対しての世間の目が厳しくなっていることに対し、敏感でいていただける方に来てほしいと思います。